2024.1.17.(水)蠟梅

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Yがテニスの練習中に転倒して足首の骨にヒビが入り、松葉杖生活となってから今日で6日が過ぎた。

家族のおかげで、Yは、家の中で何不自由なく暮らしている。だが、家族に大きな負担をかけていることは間違いない。家族のためにも一日も早くケガを治さなければと心に誓っている。

Yはケガの治りを早めるために、次の三つのこと守っている。

  • 規則正しい生活を送る。
  • 適度に身体を動かす。
  • 水を多めに飲む。

なぜYはこの3つ守るとケガの治りが早くなりそうだと思ったか。

Yには骨のヒビがどのようにして治るのかはよく分からない。が、回復のためには、全身の健康状態が良いにこしたことはなくそのためには、①規則正しい生活を送り、②適度に身体を動かす、例えば、椅子に長時間座らない。同じ姿勢を取り続けない。朝晩、上半身の体操や、ヒビの入っていない左足のマッサージをするなど。③水を多めに飲む、これはYが友人から聞いた情報なのだが、ある友人がケガをして病院に通っていた時、医者から、水を毎日1.5リットルくらい飲むとケガの治りが良くなるからやるように勧められたという。その効果があってか友人はケガからみごとに回復した。やって損はなさそうだとYは判断したというわけだ。

Yは明日足首の状態を見てもらうために病院へ行くつもりだ。1週間前に診察した先生は、骨がくっつき始めるのはケガの発生から2週間経過した頃だと話していた。明日でケガの発生からちょうど1週間だ。松葉杖になれたことくらいが成果だと思ってあまり期待せずに行ってみよう。

部屋の壁時計が9時を報せた。

窓辺に置いた胡蝶蘭が明るい光を浴びている。今日はいい天気みたいだ。

センターテーブルの上で携帯が点灯し着信の音楽が流れた。

携帯の画面に友達のR子の名前が表示されている。

「もしもし、Yさん?足の具合はどう?良かったらこれからドライブに行かない?」

R子が自分の車でYを外へ連れ出してくれるというのだ。

Yはケガをして以来一歩も外へ出ていなかった。

松葉杖で外に?大丈夫だろうか?

自信がなくて誘いを受けることを躊躇していたYだったが、R子の明るい声と外の日差しに背中を押されて、出かけてみることにした。

2時間後玄関前にR子の車が到着した。Yは松葉杖をR子に預けると、助手席のシートに後ろ向きに腰を掛けてから、両足を車の中に引き込んだ。

1月にしては暖かく、久しぶりの外気はとても気持ちが良かった。

R子はランチの場所に10キロ先のイタリアンレストランを予約しておいてくれた。

車中ではお互いの近況を伝え合いあっという間に目的の店に着いた。

ありがたいことに店の玄関前に段差はなく入口はスライドドアであった。

松葉杖をついて、店内を移動するのも思ったほど難しくなかった。

二人は、きれいに盛られた地元野菜のサラダやオードブル、季節のパスタをおしゃべりと共に楽しんだ。

食事のあと、レストランを出て車に乗り込むと、R子は

「今年は、もう梅が咲いてるのよ。」

と言って、梅の話を始めた。梅と言えば蠟梅だ!と2人の意見が一致。香りが良く大好きだと盛り上がった。蠟梅は12月から咲き始めるが普通梅といえば1月下旬から咲くイメージだ。幸運にも車道脇の民家や小学校の裏庭で本当に紅梅や白梅が咲き始めているのを見ることができた。

ところで蠟梅は梅という字がついているが実は梅の仲間ではない。蠟梅は中国原産のクスノキ目ロウバイ科ロウバイ属の落下低木である。花の質感が蝋でコーティングしたようだから「蠟梅」という名がつけられと言われている。また別の説では花の咲く時期が臘月(ろうげつ)と呼ばれる太陰暦12月の頃だから、臘月の蠟の字と梅を併せて「蠟梅」と呼ばれるようになったとも言われているそうだ。

ちなみに蠟梅の花言葉は慈愛。

花の佇まいと優しい香りは慈愛に満ちている気がする。

ドライブの最後に2人は町のはずれの港に寄った、そこは大型客船も寄港する地元では人気の場所だ。

R子は埠頭に静かに車を止める。目の前にはキラキラ光る海と大小の島、そのさらに向こうには半島が見えた。

「今日は向こうの島まで良く見えるね。」

「潮風が最高ね。」

車の窓を開けると、日差しと海風と波のわずかなしぶきまで肌に感じられた。

出かけてきたからこそ出会えたすばらしい景色だった。

「また、行こうね。」

Yを自宅まで送り届けると、R子は運転席の窓から大きく手を振りながら帰って行った。

R子は慈愛に満ちている。

家に向かって歩き出すとYは松葉杖が軽くなったように感じた。

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