足の骨折から一週間を迎えた日、Yは医師の診察を受けた。
レントゲン写真を眺めながら、医師は言った。
「良好ですね、ギブスをつけてこのまま生活すれば、一週間くらいで骨の癒合が始まるでしょう。まあ、来週いっぱい、それ以上は在宅療養になるかもしれませんが頑張ってください。では、また来週。」
病院から帰るタクシーの中でYは思った。
『あと一週間で骨の癒合が始まるって先生は言ってたけど、本当に60代の自分が子供と同じスピードで治るんだろうか?』
これはこの一週間Yが抱き続けた疑問である。
先生は先週の説明で「子供の場合は、2週間くらいで骨の癒合が始まります。」と言っていた。いやいや子供と60代の自分とでは、治癒力が全く違うでしょう?と心の内で思ったが、何故かYはその疑問を先生にぶつけなかった。今日もその疑問を口にしなかった。私の年齢で子供と同じ様に回復するんですか?となぜ聞かなかったんだろう。
それは先生の言葉を信じたかったからだ。いい情報をもらったと思って素直に受け取ろう。本当にそうなると思って過ごそうと思った。実際先生の言葉はYの心を軽くしている。患者に元気を出させて治癒効果を高めようという先生の作戦だとしたら大成功だ。
先生の言葉は良く効くクスリのようだ。
結果が出るのが楽しみだとYは思った。
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